東京都は、全国各地がそれぞれの魅力を高めて互いに協力し合うことで、共に栄え、成長し、日本全体の持続的発展へとつなげていく「共存共栄」を目指し、全国各地との連携を進めています。
連携に向けた取組の一環として、各道府県を訪問し意見交換を行う中で、『あったかいDX』をミッションに掲げ、多くの先進的なDX推進施策を行う三重県の最高デジタル責任者(CDO)である田中淳一氏にお話を伺う機会をいただきました。
社会のデジタルシフトが加速する中、2022年12月には政府が「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を閣議決定するなど、自治体においてもDX推進は重要なキーワードの1つです。一方で、DX推進に取り組む際には、何を目指せば良いか、何から始めれば良いかなど、迷うことも多くあります。
今回、行政・民間両方の立場でDXを推進された経験を持つ田中CDOに、三重県が進めるDX推進施策や、自治体がDXを推進するうえで持つべき視点などについて、お話を伺いました。(取材日:2023年1月17日)
三重県が推進する、県民の皆さんの心豊かな暮らしと地域の持続可能性を目指し、みんなの想いを実現する『あったかいDX』。前編では、その『あったかいDX』を中心に、三重県が進めるDXについてご紹介します。
三重県 田中淳一CDO
行政のDXと社会のDXは同時に進める
東京都:CDOに就任されて以降、DX推進に向けて様々な取組をされていますが、三重県で行う取組の概要を教えてください。
田中CDO:2021年4月にCDOに就任し、デジタル社会推進局ができました。まだデジタル田園都市国家構想も発表される前でしたので、社会全体のDXについて自分たちの考えを整理するところから始めました。
社会全体のDXの中には、まず行政のDXがあります。いわゆる働き方や仕事の進め方、もっと言うとコミュニケーションや会議のあり方など、組織の変革を促す部分も含まれます。これは県庁のDXはもちろんですが、広域自治体として市町のDXを円滑に進めるための連携も必要であり、デジタル社会推進局の中でも非常に比重が大きいです。
次に、サービスのDXです。こちらは、県民の皆さんから強く求められる部分でもあります。住民との接点が多い市町の行政サービスを推進するため、三重県・市町DX推進協議会を作り、市町連携班という部署もおいて、横の連携を取りながら市町のDXも促しています。
次に、企業・事業者のDXです。県内で調査などを行うと、DXに取り組んだことが無い、DXの概念がよく分からないといった声が多くあります。こうした企業や事業者に、組織の働き方や事業そのもののDXを考えてもらうために、セミナーを行うなど人材育成の部分をお手伝いしています。
また、インフラの整備も重要です。人口が減少していき、経済合理性が下がると事業者が撤退してしまう。そうなると、さらに過疎化が進んでしまうので、そうした事態を避けるため、5Gアンテナ基地局の整備に向けた支援などを進めています。
この他に、空の移動革命である空飛ぶクルマなどの新技術や、デジタルデバイドの解消などにも取り組んでいます。
これらを全て所掌しているのがデジタル社会推進局ですが、50人程度の小さな部署のため、非常に大変な部分もあります。特に、組織のDXはかなり手がかかりますが、それだけでなくサービスのDXも同時にやっていかなければいけません。組織の中のDXを進める職員だけでなく、住民の方と接点を持つ職員の認識も変わっていかないと、お互いに良いものが生まれない。そのため、様々なことを同時に進めなければならない中で、バランスを見ながら進めています。
どんな社会を目指してデジタルを活用するかを
考えるのが『あったかいDX』
東京都:デジタル社会推進局を中心に、DXに関して多岐に渡る取組を進められている中で、『あったかいDX』が一つのキーワードかと思います。この『あったかいDX』について、詳しく教えてください。
田中CDO:『あったかいDX』を知っていただくには、まず『つめたいDX』を説明する方が分かりやすいと思っています。『つめたいDX』というのは、合理化や効率化が進み、人間中心ではなくてテクノロジーオリエンテッド(技術志向)な社会。つまり、「デジタルを活用して、どんな社会を目指すか」を考えるDXです。一方、「どんな社会を目指してデジタルを活用するか」を考えるのが、『あったかいDX』です。これは全然違います。
私が今まで見てきた地方創生におけるデジタル活用やICT活用は『つめたいDX』が多かったように感じています。このテクノロジーを使って何ができるかな、このソリューションを導入したい、というところからスタートして、導入までは実現するが、そこで終わってしまう。デジタルでできることから考えていくのではなく、実現したい社会の理想を掲げ、その実現のためにデジタルを活用していくことが必要です。
ですから、私は着任後、あえてソリューション系の大きな取組はほとんど行いませんでした。行うと、インパクトはありますが、それだけになってしまうので。まずは目指すべき未来像を描くために、1年をかけて、インタビューやワークショップを通じて県民の皆さんと一緒に考え、『三重県 デジタル社会の未来像』(リンク)をとりまとめました。三重県では、『あったかいDX』を「DXによって、県民の皆さんの時間や気持ちに余裕が生まれることで、自己実現が図られ、幸福実感が向上」していくこととしています。
【※インタビューやワークショップの様子は『三重県 デジタル社会の未来像』(リンク)に掲載されています。】
DXによって自己実現が図られることが重要
田中CDO:DXの効果は、そもそも時間短縮か付加価値の向上のみです。逆に時間短縮や付加価値の向上に繋がっていないものはDXではなく、単なるデジタル活用です。DXを行うと時間や気持ちに余裕が生まれるので、そこで何をするかが重要です。新たなことにチャレンジするもよし、これまでやりきれなかったことをやるのもよし、何をやっても良いのですが、自己実現が図られることが極めて重要なのではないかと考えています。仕事や行政、暮らしのDXをどんどん進めていき、利便性や生産性を向上するのは当然ですけれども、自己実現に結びつけるという『あったかいDX』の理念を持ち続けることが重要です。
自己実現を図ることができる人が増えれば、結果的に心豊かな暮らしができ、住みたい場所に住み続けられて、持続可能な社会につながっていく。すごくきれいな話で絵空事と思われるかもしれないですが、これを掲げないで進んでいくと、どこに向かっているか分からなくなってしまって、おそらく途中でやめてしまう。永遠の理想に対してデジタルでいかに近づけていくか、ということがすごく大切だと思っています。
【中編では、『あったかいDX』に向けた取組や、理想の実現に向けた施策についてお届けします。】
(中編に続く)
<プロフィール> 田中 淳一(たなか じゅんいち)
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