自治体におけるDXをテーマに、三重県の最高デジタル責任者(CDO)である田中淳一氏にお話を伺い、前編(リンク)では、三重県が推進する『あったかいDX』を中心にお届けしました。

中編では、『あったかいDX』を描くために何を考え、どのように取り組んだのか、また、実現のために進めている取組について、ご紹介します。(取材日:2023117日)

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最初に考えたことは、県民の皆さんにどうすれば

「自分ごと化」してもらえるか

東京都DXではなく、単なるデジタル活用になるという点は本当に注意しなければいけないですね。また、日々の業務に追われて薄れてしまいがちですが、実現したい理想の社会像をしっかり描くことの重要性を改めて感じました。三重県では、理想の社会像をどのように作成されたのでしょうか。

田中CDO三重県の理想像は、先ほどご紹介した『三重県 デジタル社会の未来像』(リンク)に「未来の三重のありたい姿」としてまとめています。こちらの作成にあたっては、目指す姿や基本理念を県民の皆さんと一緒に作っていきたいと思っていたので、県民の皆さんにどうすれば「自分ごと化」してもらえるかを最初に考えました。そこで、まずは皆さんに同じ情報を持ってもらうために20分ほどの動画(下部に掲載)を作りました。

「自分ごと化」のために、ワークショップを実施したいと思いましたが、いきなり集まって話していただくと、人それぞれデジタルへの知識もイメージも違うので、知識がある人が優位になったり、偏ったイメージに議論が引っ張られてしまったりします。そのため、共通の言葉や認識をある程度醸成し、平等に対話するための土台を作りたいと思い、初めに動画を見てもらったうえで、ワークショップを実施しました。動画を見てからワークショップを行うと、本当に盛り上がります。ご高齢の方や20代の若い方、生まれも育ちも三重県の方や県外から引っ越してきた方など、年齢やバックグラウンドが違っていても、共通の言葉や認識ができるので活発に意見交換できるようになっていました。

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「未来の三重のありたい姿」の作成には、このようなワークショップなどを通じてデジタル社会の未来像について県民の皆さんと対話をし、しっかりまとめるというプロセスを踏んできました。また、県民の皆さんの声を反映させることで、そこから逃げられない、計画として意味あるものにしたいという想いもありました。

ただ、このような計画の作成方法は、デジタル社会推進局のみんなも慣れていないので、最終的なゴールが見えづらかったと思います。そのような苦しい中でも、みんなで協力しながら何とか乗り越えていきました。デジタル社会推進局は県庁全体の司令塔にもなるので、このような経験をした職員が生まれたことも非常に価値があることだと考えています。

 

DXの底上げには働きかけが必要

東京都三重県のデジタル社会形成に向けた特徴的な施策の1つに、『みえDXセンター』があります。全国初のDX推進に関するワンストップ相談窓口である『みえDXセンター』の目的や概要について教えてください。

田中CDO『みえDXセンター』(リンク)(以下、センター)は、20219月に立ち上げました。センターを作った目的の1つは、DXの第一歩を踏み出す応援をしていくことです。

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センターの中には、「みえDXパートナーズ」(以下、パートナー)と、「みえDXアドバイザーズ」(以下、アドバイザー)があります。パートナーには、国内外のDXを牽引する企業に登録してもらっていて、これには理由があります。三重県は名古屋に近いので、企業は営業効率が良い名古屋に行ってしまい、なかなか三重県まで来てくれません。これでは、デジタルの本当の価値は、場所を問わずにエンパワーメント(自己実現)することができることにあるはずなのに、都市部に集中して営業されてしまい、三重県民は本当の価値を享受できない。そこで、県もバックアップしながら、企業に三重県でセミナーなどを行ってもらい、一緒に地域の人々や企業に働きかけを行うことで、活動の優先度が上がるようにしています。企業の活動対象外になってしまうと、いつまでもデジタル化が進まないので、まずは対象にしてもらうことが大事だと考えています。

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一方で、アドバイザーには、デジタル業界のスペシャリストからジェンダー平等の第一人者など、これからの社会づくりに必要な活動をしている様々な領域の人に入ってもらっています。県内にデジタル社会推進の認識が醸成されると、DXの取組が増え、だんだんと相談へと繋がってきます。今はまだその前のフェーズで、底上げを行う時期ですので、こちらからどんどん働きかけていくことが必要です。こうした働きかけにもアドバイザーと一緒に取り組んでいます。

今は働きかける頻度を増やし、接点をたくさん作って、DXをもっと身近なものにしていきたい。そして、そこからどのようにコミュニティを作っていくかが重要です。コミュニティができると、その中で切磋琢磨が始まりますので。

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重要なのは『あったかいDX』という基本理念を

ずっと言い続けること

東京都これまで伺った取組に加えて、202212月に『みえのデジタル社会の形成に向けた戦略推進計画』(以下、みえデジプラン)を公表されました。三重県が今後進めていくデジタル社会推進施策の展望を教えていただけますでしょうか。

田中CDOこれまでの2年間でやってきたことは、社会のDXと行政のDXの土台作りです。今後は、社会のDXは、センターやみえデジプラン(リンク)が土台となって、各部局が行うDX推進をしっかりサポートするフェーズです。行政のDXは、SlackMicrosoft365などを導入して、大規模な働き方やコミュニケーションのあり方の改革に着手するところです。まずは、新しいコミュニケーションや組織の在り方を丁寧に浸透させ、定着させることが足元ではすごく重要だと考えています。

一方で、サービスのDXでは、みえデジプランの中で目標やスケジュールを立てているので、ユーザー視点に立ち、利用率や利用満足度にこだわりながら、しっかりと進めていきます。

全体としては、みんなの想いを実現する『あったかいDX』という基本理念をずっと言い続けることが非常に重要です。この2年間で時間をかけて丁寧に作ってきたものを、県庁の各部局に浸透させていきたいと思います。

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【※『みえデジプラン』は、こちらからご覧いただけます。】

 

【後編では、自治体がDXを進めるうえで必要な視点や、視点を持つための取組などについてお届けします。】

後編に続く

<プロフィール>

田中 淳一(たなか じゅんいち)

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