『あったかいDX』や『みえDXセンター』など三重県が進めるDX推進の取組を中心にお届けした前編(リンク)と中編(リンク)に続き、三重県の最高デジタル責任者(CDO)である田中淳一氏に伺ったお話をお届けします。

後編では、DXを考える際に参考となる、自治体がDXを進めるうえで必要な視点とは何かその視点を持つためにどのように取り組むべきかなど、自治体におけるDX全般について紹介します。(取材日:2023117日)

phot_mie_cdo14.png三重県 田中淳一CDO

 

DX推進の効果は、地方創生のテーマに対して

デジタルで何ができるかを考えること

東京都「デジタル田園都市国家構想総合戦略」でも、地方の社会課題解決の重要な手段としてデジタル活用を位置付けていますが、CDOが考えるDX推進が地方創生に与える効果について教えてください。

田中CDOこれは三重県としてではなく、私個人の考え方になってしまいますが、この話はやはり正解がないです。そのため、正解とは限らないですが、これまでデジタル以外でも地方創生の取組に関わってきた経験も踏まえて、地方創生とはなんだろうと考えると、やはり人口減少問題への対応と、それを踏まえたサスティナビリティ(持続可能な地域社会)とウェルビーイング(心豊かな暮らし)の話だと思います。そのようなテーマに対して、デジタルでできることを考えていくことが1つの効果かなと考えています。

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全ての領域がデジタル前提の社会にアップデート

している

東京都三重県の取組について伺う中でも、理想の社会像の実現のためにデジタルを活用していくことが必要とのお話をいただきました。自治体がDXを進めるうえで欠かしてはいけない視点はどのようなものがあるでしょうか。

田中CDO今は、Society3.0からSociety5.0、デジタル社会への転換と言われています。デジタル競争力ランキングや他のランキングなどを見てみると、デジタルの競争力と全体の競争力は完全に相関関係にあります。つまり、デジタル競争力が高いと、全体の競争力も高まりますので、デジタル社会に対応していかなければなりません。日本は、Society3.0の時代に非常にうまくいきましたが、それは教育のあり方や社会のあり方がうまくフィットした時でした。そして、そこから脱却しきれてないというのが、今最も大きな課題なのだろうと思います。ですから、Society5.0どころか4.0にも全然移行できていなくて、仕事も家庭も教育も行政も3.0で全部が最適化されている状態。ここを本気でアップデートする。つまり、デジタルの領域だけSociety5.0になるのではなくて、Societyですから、全ての領域で3.0から5.0に変わっていく必要があります。そのような認識をあらゆる部局の人が持っていなければなりません。デジタル社会は社会の中の一つにデジタルがあるのではなくて、これからは全てがデジタル社会になって行く、デジタル前提の社会にアップデートしていくという認識が大切なのではないでしょうか。

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DXはD(デジタル)があってX(変革)ではなく、

X(変革)があってD(デジタル)がある

田中CDOまた、DXについて話をさせていただくと、DXはD(デジタル)があってX(変革)ではなく、X(変革)があってD(デジタル)となります。Xの方が大きく、変革があって、それにデジタル「も」活用するということです。

ICT化とDXでは何が違うかというと、ICT化は、組織や社会の慣習や仕組みに合わせてデジタルを活用すること。この分かりやすい例は何かというと、自動ハンコ押し機です。どうやってハンコを効率的に押すかを考え、ハンコをなくすことを考えないのがICT化。今の時代に合わせてハンコを押さなくても良いのではというところから考えていくのがDXです。

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もう少しブレイクダウンすると、全体の中の一部がデジタルなのではなく、全てがデジタル社会にパラダイムシフトしたという適切な時代認識をまず持つこと。そして、その時代に適応していくために、新たな理想状態を描き直すことが必要です。時代が変化しているので、今までの延長線上では難しく、描き直さないと大変なことになります。さらに、理想状態を実現していくためにはどのような変革が必要だろうということを、慣習などにも踏み込んで棚卸しすることが必要だと思います。慣習や仕組みを変えて、そして変革を実行していく時にデジタルも活用していくのがDXなのです。

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適切な時代認識を持つための3つのS

(シャワー・シェア・サービス)

東京都自治体職員はこのような発想を持ってDX推進に取り組まなければいけないということですね。このような認識・発想を持つことは急には難しいと思いますが、どのようなことから取り組むと良いでしょうか。

田中CDO変革していくことはすごく難しいですが、少しブレイクダウンすれば何をすれば良いかが見えてくるのではないかと思います。変革という言葉を聞くと、自分たちがすごく変わらないといけないとか、自分たちがダメだと言われているのではないかとか、そのように捉えてしまいます。でも、そうではなくて、行政だけでなく誰でも同じように迎えていることなので、今の時代の変革というのは適応に近いです。確実に社会で変化が起きている中で、変化に適応できたものだけが生き残れるので、適応せざるを得ない。そのために、今はデジタルを使うという時代認識をまずは持たなければいけません。

では、どうしたらそのような認識を持てるのかというと、3つのS(シャワー・シェア・サービス)が大切です。情報の「シャワー」を浴びて、自分たちで情報の「シェア」をして、そして優れた「サービス」をどんどん使うということです。

例えば、DX関係や県内各部局の情報を選別して、毎日デジタルで共有する。もちろん全部見きれないかもしれないですが、共通のものを見ていると共通認識ができる。共通認識があることは非常に重要で、世代や立場が違っても会議などで話しやすくなります。

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地域間競争にとらわれ過ぎず、

フラットにみんなで同時に底上げを

東京都東京都では、「共存共栄」の理念のもと、共通課題の解決などに向けて、全国の自治体との連携を進めています。DX推進は、全ての自治体が取り組む課題でもあるので、連携することで効果が高まる部分も大きいのではないかと考えています。自治体間で連携すべきことなど、CDOのお考えを教えてください。

田中CDODX推進は、まずは日本全体をデジタル先進国のスタンダードのレベルまで底上げしないといけないので、地域間競争の文脈だけにとらわれ過ぎず、フラットにみんなで同時に底上げしていく必要もあると思います。そうしないと、財源が豊富な都市部だけが一人勝ちになってしまって、地方部では一向に進まないという事態が起きてしまいます。

東京都で掲げている「GovTech東京」などは素晴らしいことですが、そのようにチャレンジする予算がなかなか無い地域もあります。ですので、そこで得たノウハウの提供や、あるいは連携という形で全国に横展開していただきたいと思っています。

その中で、特にポイントとなるのは、人材、調達、都市OSの3つです。これから、広域自治体を中心として、各基礎自治体と連携するためのデータ基盤を新しい時代のデジタルインフラとして整えていく必要が出てきます。そのためには当然、人材がいなければいけないですし、さらに予算も必要になってくる。特に人材の部分では、人材育成や人材確保、あるいは人材流動のところについて、東京都でもモデルを作ってもらい、連携してもらいたいです。自治体のDXに関するノウハウを持つ人材を、いかに全国に誘導していくかというのは極めて重要だと思います。

DX推進は、全国の自治体が試行錯誤しながら取り組んでいます。そこで得られた知識や情報について、成功事例はもちろんですが、失敗なども含めて共有しながら、日本全体で協力してDXを進めていく環境ができると理想的だと考えています。

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【インタビューを終えて】

自治体におけるDXをテーマに、三重県の田中淳一CDOから多岐に渡るお話をお聞かせいただきました。

DXは自治体職員の業務から切り離せないものになっています。今回の取材記事が、自治体職員の方がDX推進に取り組む際の参考や、DXについて考えるきっかけになりましたら幸いです。

(終わり)

<プロフィール>

田中 淳一(たなか じゅんいち)

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